昨年末から熊本県阿蘇地方で取り組んでいる計画では、この夏にいくつかの水源を訪ねました。阿蘇は日本有数の水の産地として知られ、地表に降った雨水が火山地帯特有の地層を通り濾過されることで良質な地下水になると言います。その水は農業用水や飲料水など様々な場面で活用されていますが、清らかな水の存在はこの地域の暮らしや文化の基礎になっていると言っても過言ではないかもしれません。
 訪問先の一つである立岩水源の湧水は年間を通して約13度を保っており、水源にほど近い川に入ってみると、真夏の炎天下でも身体の芯まで冷えるほどでした。湧き出たばかりの水の中を泳ぐ稚魚や、瑞々しい空気で苔むした周囲の木々の色、絶えず激しい流れに晒されて形成された岩の姿など、水源で見られた風景のひとつひとつが、はるか昔から変わらないこの土地の本質を表す存在のように感じられます。